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第16回 千利休が完成させた茶の湯、なぜ戦国武将のたしなみとなったのか

NHK大河ドラマ「真田丸」は大阪編に突入し、上方落語の大御所桂文枝さんが演じる千利休が登場するようになりました。利休といえば豊臣秀吉の側近で、茶の湯を完成させた人物です。狭い茶室で武将の心を推し量るシーンも登場していますが、茶の湯を大名や武将に広めた立役者の1人織田信長には、別の思惑があったようです。茶の湯がなぜ戦国武将の間で広まっていったのか、探ってみましょう。

室町時代から発展を続けた日本の茶の湯

茶は熱帯、亜熱帯気候で生息する常緑樹で、中国南部や東南アジアのメコン川流域が原産地といわれています。中国では古くから飲茶の習慣が生まれ、現在の四川省から長江流域に沿って広まりました。

中国全土で茶が飲まれるようになったのは、7世紀から10世紀にかけて中国を支配した唐の時代。日本へは9世紀に中国から戻った空海や最澄により、持ち込まれました。その後も茶の製法を遣唐使や留学僧が日本へ伝え、貴族や僧の間で愛好されたと伝えられます。

室町時代になると、中国製の茶器が唐物と呼ばれて重宝され、それを使った盛大な茶会が開かれるようになります。6代将軍足利義政の茶の師匠である村田珠光が、主人と客との精神の交流を大切にする茶会のあり方を説きました。これが茶の湯の源流となるのです。

堺の町衆出身の千利休(1522~1591年)はこの精神を受け継ぎ、茶の湯を完成させました。利休の茶はわび茶と呼ばれ、豪商や西国大名の間に広まっていきます。上流階級の教養を示す場所となっていったわけです。

利休の名は町人の身分では宮中に参内できないため、正親町天皇から与えられた居士号です。居士とは出家せずに修行する仏教者という意味で、その道の達人にしか授与されませんでした。

利休は信長が堺を制圧すると、茶頭として雇われ、織田家の武将に茶の湯を伝えます。本能寺の変で信長が死んだあとは、秀吉に仕えました。織田家や豊臣家からは細川忠興、蒲生氏郷、高山右近、古田織部ら利休七哲といわれる弟子を生んでいます。

利休のわび茶に触発され、信長の弟の織田有楽ら茶の湯の流派を成す大名が現れます。しかし、晩年は秀吉と対立し、切腹を命じられました。死の真相は豊臣政権下の政治闘争に巻き込まれたとも、堺の権益を守ろうとして対立したともいわれています。

信長は名物茶器を家臣の統制に利用

茶の湯に目を着けた戦国大名の1人が信長です。信長は重臣の丹羽長秀に命じ、名物茶器を集めさせます。それを盛大な茶会で披露し、自分の富と名誉を顕示しました。尾張(今の愛知県西部)の田舎大名ではなく、教養のあるところも見せつけようとしたのでしょう。

さらに、手柄を立てた家臣に名物の茶器を与えました。配下の武将が勝手に茶会を開くのを禁じていましたが、名物を与えた武将には茶会の開催を許し、それが織田家重臣の証明となったのです。

茶の湯開催が許されたのは、秀吉、長秀のほか、柴田勝家、明智光秀、嫡男の織田信忠らで、いずれも織田家では重臣中の重臣ばかり。秀吉は信長の決定を聞き、涙を流して喜んだと伝えられています。

戦国時代には、手柄を立てた武将に領地を与えるのが一般的でした。しかし、与えられる領地には限りがあります。そこで朝廷の官位などと同様に茶の湯を利用、家中の統制に活用していました。

織田家の有力武将だった滝川一益は、武田家を滅ぼしたあと、関東管領職と上野(群馬県)1国、信濃(長野県)のうち2郡を与えられましたが、茶器が与えられなかったことを残念がったという逸話が残っています。

秀吉は天下人としての実力を世間にアピール

茶の湯の政治化をさらに推し進めたのが、信長の後を継いだ秀吉でした。秀吉は利休の補佐を受け、関白に就任した1585(天正13)年に宮中での禁裏茶会、2年後の1587(天正15)年に北野大茶の湯を成功させ、その実力ぶりを世間に知らしめます。

さらに黄金の茶室も作りました。これは畳三畳ほどの広さの組み立て式茶室で、随所に黄金を散りばめたものです。宮中にも持ち込み、正親町天皇に披露したほか、配下の武将が朝鮮半島に攻め込んだ文禄・慶長の役では、前線基地の肥前(長崎県、佐賀県)名護屋城に運び込みました。

秀吉は農民の出身です。それを民衆や朝廷、貴族らから馬鹿にされないよう天下人にふさわしい人物であることを示したかったのでしょう。信長以上に世間へのアピールに気を使い、それが民衆に茶の湯を広げる結果となりました。

秀吉の死後、江戸に徳川幕府が開かれると、古田織部らが将軍家の茶の湯指南役に任命されますが、茶の湯の政治性は次第に薄れていきます。圧倒的な実力を持ち、幕府を開いた徳川家にとって、茶の湯を政治的に利用する必要性はもはやなかったのでしょう。



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